鍼灸治療における医療保険の取扱について

 鍼灸施術(治療)を、医療保険を利用して受療することができます。

 医療保険の「療養費の償還払い」または同制度における手続きを「受領委任払い(または受領委任制度)」として施術管理者のいる鍼灸院に委任する形で窓口負担を軽減するものです。

 ただし、鍼灸施術にかかる費用の全額が医療保険の対象となる訳ではなく、一定額が示されており、このうちの3割が個人負担7割が療養費として支給されることになります。

鍼灸施術と医療保険の関係

 ここでは鍼灸院における治療を「施術」と言い表します。「術」(この場合は、鍼や灸)を「施す」(ほどこす)という意味ですね。また、「医療保険」とは、いわゆる医療機関の窓口に提出する「保険証」を用いる保険のことで、「国民健康保険」やけんぽ協会の「健康保険」、会社の「健康保険組合保険」などのことを言います。

 医療機関(診療所や病院)に受診した場合は、かかった医療費のうち個人負担分を窓口に支払い、残りは「現物給付」といって「医療」として保険相当分を受け取ります。その分の費用は保険者から医療機関に支払われる仕組みです。(これを「療養の給付」と言います)

 これに対し、鍼灸やマッサージのように(医療保険上の)医療機関以外での治療に要した費用を「療養費」という形で申請により戻ってくる(これを「償還払い」と言います)仕組みがあります。(これを「療養費の給付」または「療養費の償還払い」と言います)

 これを簡単にいうと、「鍼灸の施術を受けた際、窓口では全額を支払い、後で療養費の償還払いとして一定額の費用を受け取る」ということです。大切なことは、患者の申請により支払われるということです。でも、これでは手続きが面倒ですね。そこで、施術者(鍼灸施術を行なった鍼灸院の先生)が、患者から手続きの「委任」を受けて、窓口では個人負担分を支払うという仕組みが、保険者との間で行われてきました。

 平成31年1月からは、これまでの施術者と保険者との間で行われてきた「委任」仕組みを、国の制度として運用する「受領委任制度」がスタートしました。これにより、鍼灸マッサージによる療養費の取り扱いに一定のルール(これまでも保険者かとの間にありましたが)と基準を設け、手続きの簡略化と国により医療保険で支払われる鍼灸施術としての「お墨付き」を受けることになりました。もっとも、同時に適正な運用が行われているかを監督されることにもなりました。そのことは結果として鍼灸マッサージ施術の信頼性が担保されてきたとも言えます。

受領委任制度による保険施術の実際

 以下に、受領委任払いによる鍼灸施術の流れを紹介しましょう。

 まず前提として、受領委任払い制度を利用するためには、鍼灸院(鍼灸師)に一定の要件と事前の申請(登録)が必要です(登録を受けた鍼灸院師を「施術管理者」と言います)。受領委任払いによる鍼灸施術を受けることができるかどうかは、受療前に鍼灸院にお尋ねください。また、鍼灸マッサージの保険施術を受けるためには「医師の同意書」が必要になります。

  1. 医療機関で鍼灸施術の同意書の交付を受ける。
  2. 指定施術所で医師の同意書(初回)と保険証(毎月)を提示し、鍼灸施術を受ける。
  3. 受領委任払いを利用する同意欄に署名・押印する。
  4. 窓口で保険適用分のうち3割〜1割を支払う。

 患者様としては以上になります。

 鍼灸院では、1か月毎に療養費支給申請書を作成し同意書とともに提出します。その後、審査を経て保険者から鍼灸院に保険適用分の個人負担分を差し引いた金額(保険適用分の7割〜9割)が支払われることになっています。

医療保険を利用する患者様へのお願い


 療養の給付(医療機関における保険診療)は、療養費の支給(この場合は鍼灸院での保険施術)に優先します。本来、鍼灸施術の同意は、医師による適当な治療手段がない場合に限定して認められているため、保険診療を受けているということは、医師による治療が行われていることを意味します。そのため、鍼灸施術の当日はもちろん、医師による投薬が行われている期間(処方箋により服薬の指示があった期間)は、同一疾患での鍼灸による保険施術を受けることができません。この場合は、治療費として窓口で支払った残りの7割〜9割をお支払いいただくことがあります。

 また、鍼灸の保険施術を受けることのできる疾患は、以下のとおりとなっています。

  1. 神経痛
  2. リウマチ
  3. 頸腕症候群
  4. 五十肩
  5. 腰痛症
  6. 頸椎捻挫後遺症等

 なお、神経痛やリウマチなどと同一範疇と認められる疾患であれば支給対象疾患に該当するものもありますので、詳しくは医師または鍼灸院にお確かめください。

 受領委任制度への参加は、保険者毎の任意となっており、患者様が御加入の医療保険によっては、従来の償還払いを原則としている場合もあります。こちらにつきましても、事前に鍼灸院または御加入の医療保険担当窓口までお問い合わせください。

 受領委任制度に参加している保険者については、厚生労働省のホームページにも掲載されておりますので、そちらも御参照ください。

はり師、きゅう師及びあん摩マッサージ指圧師の施術に係る療養費に関する受領委任を取り扱う保険者等について|厚生労働省
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